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2025.07.04
レセプト請求の精度を向上させるためのポイント
クリニックを安定経営するうえで欠かせないのが、診療報酬請求(レセプト)の精度です。
診療報酬はクリニックの主要な収益源であり、請求漏れや過剰請求は経営に直接的なダメージを与えかねません。
請求漏れとは本来請求できる診療報酬を請求し忘れること、過剰請求とは本来請求できない診療報酬を誤って請求してしまうことを指します。
たとえば請求漏れには、行った診療行為を記載し忘れる、算定できる加算を見落としてしまうといったケースがあります。一方、過剰請求では、検査や処置の回数を規定以上に請求してしまったり、同じ検査や診療を重複して請求しまったりするといったケースが代表的です。
ただ、診療報酬制度は非常に複雑で、現場の多忙さも加わり、ミスが起こりやすい状況です。そのため、開業前から対策を講じておくことが開業後のリスク回避と経営安定への第一歩となります。
本コラムでは、レセプト請求の精度を高めるために、開業前からできる具体的な対策を解説します。
レセプト請求における「請求漏れ」と「過剰請求」のリスク
ここでは、請求漏れと過剰請求、それぞれのリスクについて解説します。
【請求漏れのリスク】
- 収益が減少する
- 将来的に医療の質が低下する可能性がある
請求漏れが発生すると、本来得られるはずの診療報酬が減少し、資金繰りが悪化します。これが続けば人件費や設備投資に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
また、適正な報酬が確保できなければ、提供できる医療サービスの質が低下する恐れもあります。
【過剰請求のリスク】
- 返戻・減額査定を受ける
- 監査・調査の対象になる可能性がある
- 社会的信用が低下する
過剰請求が発覚すると、レセプトが返戻されたり、診療報酬の支払いが減額されたりします。ミスが重なると監査対象となり、過去分の遡及調査を受けるリスクも高まります。さらに意図的と判断されれば、行政処分や、信用低下にもつながりかねません。
また、レセプトの修正や再請求に追われることで、業務負担や人件費が増加する点にも注意が必要です。レセプトにミスがあるということは、患者さんへの会計にも誤りが生じている可能性があり、返金などの対応が必要な場合もあります。
請求漏れ・過剰請求が起こる主な原因
請求漏れや過剰請求の背景には、いくつか共通した原因があります。
【複雑な診療報酬制度】
日本の診療報酬制度は非常に複雑で、ルールや条件も細かく定められています。さらに2年ごとに制度改定が行われるため、最新情報を把握し続けなければなりません。この制度の変更点を把握しきれず、ミスにつながるケースも少なくありません。
【人的要因(忙しさによるミス)】
医療現場は常に多忙です。特にクリニックではスタッフが限られ、診療と事務作業を並行してこなすこともあります。忙しいなかで入力作業を行うと、どうしても確認漏れや算定ミスが発生しやすくなります。
【情報共有不足】
診療記録や検査結果など、患者情報の共有が不十分な場合もミスの原因になります。情報に抜けや漏れがあると、必要な診療行為の請求漏れや重複請求が発生するリスクが高まります。診療スタッフと事務スタッフの間で、正確な情報共有体制を整えることが重要です。
【教育・研修不足】
診療報酬請求に関する知識が不足していると、正確なレセプト作成ができません。スタッフの知識を常に最新の状態に保つためには、定期的な研修や勉強会を実施し、制度変更にも対応できる体制を整える必要があります。
開業前にできる!レセプト精度向上のための準備
レセプト請求ミスを防ぐためには、開業前から体制を整えておくことが重要です。ここでは、開業前にできる具体的な準備を紹介します。
1. 請求業務の方針を決定する
レセプト請求業務を誰がどこまで担当し、どのような流れで進めるかを開業前に明確にしておきましょう。事務スタッフによるレセプトデータの作成だけでなく、作成後のチェック体制や、提出までのプロセスも設計しておくとスムーズに進みます。
また、レセプトデータや関連資料を誰でも・いつでも確認できるよう、保管ルールを統一しておくことも大切です。運用ルールや手順書を作成し、スタッフ間で共有しておきましょう。
2. 事務スタッフの採用・教育
レセプト業務を担う事務スタッフは、クリニック経営を支える重要な存在です。診療報酬請求の知識を持つ経験者を採用するのが理想ですが、難しい場合は採用後すぐに外部研修をふくめ、研修計画を立てましょう。
「ただ作業をする」のではなく「内容を理解してチェックできる」人材を育成することが重要です。
3. レセコン・電子カルテの選定
レセプト精度向上には、システム選びも大切です。レセコンや電子カルテを選ぶ際は、サポート体制の充実度、操作性、他システムとの連携を確認しましょう。
入力ミスを防ぐ補助機能が備わっているものや、分からないことがあればすぐに相談できるサポート体制が整っているレセコンを選ぶと安心です。
4. 院長自身の制度インプット
レセプト業務をスタッフに任せる場合でも、院長自身が診療報酬制度の基本を理解しておくことは欠かせません。制度を把握していないと、スタッフ任せになりがちで、不正請求や重大なミスに気づけないリスクが高まります。
開業前から、診療報酬のルール、加算要件、よくある査定ポイントを学び、「何が請求でき、何ができないか」の感覚を身につけておきましょう。
レセプト請求の精度を向上させるための実務対策
レセプト請求ミスを防ぐためには、開業後も継続的な取り組みが必要です。ここでは、すぐに実践できる具体的な対策を紹介します。
【カルテ記録の徹底】
正確なレセプト請求は、正しいカルテ記録から始まります。診療内容や検査、処置について、抜けや漏れのない詳細な記録を心がけましょう。特に加算対象となる条件や複雑な診療行為は、後から見返しても内容が正確に把握できるよう指導料、管理料算定に必要な記載事項を丁寧に記載することが重要です。
【業務分担・プロセス改善】
レセプト請求の精度向上には、診療ごとの正確な診療費計算が欠かせません。忙しさに流されて適当に入力してしまうと、月初にレセプトデータをまとめる際、エラーチェックで入力ミスが発覚し、修正に手間取ることになります。入力作業に集中できる環境を整え、マルチタスクになりがちな業務は適切に分担し、プロセスを見直しましょう。
【教育・研修の継続】
診療報酬制度は定期的に改定されるため、スタッフの知識を常に最新に保つ必要があります。院内で知識にバラつきがあるとミスの発生リスクが高まります。定期的な勉強会や外部研修を取り入れ、制度改定のポイントや、よくある査定事例を共有し、スタッフ全体のレベルアップを図りましょう。
【ダブルチェック体制の構築】
ヒューマンエラーを防ぐには、ダブルチェックが有効です。レセプト作成後、別のスタッフが内容を確認する体制を整えましょう。
また、日常業務においても、入力や会計で迷った際は知識のあるスタッフに確認し、あやふやなままにしないことが大切です。
【システム・チェックリストの活用】
レセコンや電子カルテのチェック機能を活用し、入力漏れや不備を防止しましょう。
あわせて、院内でよくあるミスや、注意すべき項目をまとめたチェックリストを作成し、請求作業時に活用するのも効果的です。システムと手作業のダブルチェックでミスを防ぐ体制を整えることが、レセプト精度の安定につながります。
【スタッフ定着化の工夫】
レセプト業務の精度を安定させるためには、スタッフが長く働ける職場づくりも大切です。人の入れ替わりが多いと、そのたびに業務の引き継ぎや教育が必要になり、ミスや負担が生じやすくなってしまいます。
そのため、働きやすい環境を整えることが欠かせません。たとえば、入職時の研修に加えて、定期的な勉強会やフォローアップの機会を設けることで、安心して学び続けられる体制をつくりましょう。また、柔軟な勤務体制や有給の取りやすさなど、日々の働きやすさにも目を向けたいところです。
さらに、日頃の声かけや感謝の気持ちを伝えることも、チームとしての一体感や「ここで働いていたい」という気持ちにつながります。スタッフが居心地よく働ける環境は、自然と業務の質やレセプトの精度にも良い影響をもたらします。
まとめ|正確なレセプト請求が、安定経営へのカギ
レセプト請求の精度向上は、クリニック経営の安定に直結する重要なポイントです。事務スタッフの知識向上、正確な入力、それを支える業務環境づくり、さらに診療スタッフとの情報共有など、取り組むべき課題は多岐にわたります。
しかし、人の努力だけに頼らず、システムを活用して効率的にミスを減らすことも可能です。メディカルシップスでは、クリニックのニーズに合った機器選定をサポートしています。レセプト業務の精度向上に向けて、ぜひお気軽にご相談ください。