2025.07.04
在宅医療(訪問診療)と外来クリニック、開業する際の違いは?資金・年収・条件を解説
高齢化の進行に伴い、在宅医療のニーズは年々高まっています。2040年ごろには在宅患者がピークを迎えるとされ、国も制度整備や診療報酬の見直しで後押しを強化中です。
この記事では、在宅医療と外来クリニックの違いを、開業資金・年収・診療体制・制度などの視点から整理しました。
これから開業を検討する医師の皆様が、在宅医療を取り入れるかどうか判断するためのヒントをご紹介します。
在宅医療(訪問診療)と外来クリニックの開業準備の違い
在宅医療を専門に行うクリニックと外来クリニックでは、開業に必要な資金や設備、人員体制に大きな違いがあります。まずはそれぞれの特徴を一覧で比較してみましょう。
在宅医療は設備や人件費を抑えやすい分、地域との連携体制や24時間対応など、外来とは異なる準備が求められます。
限られた資金で始めたい、または高齢者ニーズの多い地域で開業したい場合には、在宅医療は有力な選択肢といえるでしょう。
在宅医療(訪問診療)と外来クリニックの開業資金
在宅医療クリニックの特徴は、初期投資を比較的抑えられることです。物件の規模や設備のシンプルさから一般的な外来クリニックと比べて費用を大幅に削減できます。
以下は、開業資金の主な内訳を比較した表です。
※内科クリニックは40坪(家賃60万円)、在宅医療クリニックは10坪(家賃15万円)のテナントを想定。実際の費用は立地や開業形態によって変動します。
在宅医療(訪問診療)と外来クリニックの年収
開業後の収益性は、診療スタイルによっても大きく変わります。ここでは在宅医療と外来診療で、医師の年収にどのような違いがあるかを見ていきましょう。
■ 年収の目安
※民間の医師求人サイト、開業支援サイト等の情報をもとにした目安です。(2025年5月調査)
在宅医療では、1回の訪問で算定できる診療報酬が比較的高く設定されています。少ない患者数でも単価が高く、結果として年収が高くなりやすい傾向にあります。
ただし、緊急対応や訪問件数の調整、24時間体制など運営の難しさもあるため、自院にとって無理のない体制かどうかを踏まえて判断することが大切です。
在宅医療クリニックの開業スタイルと要件
在宅医療での開業を考えるとき、まず検討したいのが”外来を併設するかどうか?”です。
ここでは「在宅専門クリニック」と「外来+在宅併クリニック」の特徴と注意点を整理します。
在宅医療専門か?外来併用か?開業スタイルを比較
それぞれの特徴を比較しながら、検討ポイントを整理しましょう。
在宅医療専門クリニックの特徴
- 外来診療は行わず、訪問診療に特化
- 診療時間を訪問に集中でき、訪問件数を確保しやすい
- 医師複数名なら24時間対応体制の構築も可能
【注意点】
- 開業初期の集患がやや難しい
- 緊急往診や看取り体制の整備が必要
- 地域の介護・看護施設との連携が前提
- 診療報酬(在医総管など)が減算されるため、効率的な訪問計画が必要
外来+在宅併用クリニックの特徴
- 外来をベースに、午後や特定曜日で訪問診療を実施
- 柔軟な運営がしやすく、経営が安定しやすい
- 外来患者からのニーズで訪問へ移行できる流れが作りやすい
【注意点】
- 医師1人だと訪問と外来の両立が難しくなる
- 24時間対応など、在宅の基準を自院だけで満たすのが大変な場合も
在宅医療専門クリニックの開設要件
外来機能を持たず、訪問診療だけを専門に行う「在宅医療専門クリニック」は、通常の診療所とは異なる開設ルールがあります。
これは、健康保険制度において”外来の代替となる十分な体制があること”が前提とされており、以下の要件を満たす場合にのみ保険診療が可能と認められます。
在宅医療専門クリニックが保険診療を行うための7つの条件
1.無床診療所であること
2.対応エリアを明確にし、周知していること
→ ホームページやチラシなどで、訪問可能な地域を明示する。
3.地域内の患者からの診察を断らない体制を整えること
4.協力医療機関を2か所以上確保していること
→ 外来診療が必要な患者に対応できる医療機関との連携(医師会の協力があれば代替可)
5.地域の相談窓口として機能し、連絡先を周知していること
6.診療所の情報が外から分かるよう表示されていること
7.夜間・休日の緊急連絡体制が整っていること
参考:厚生労働省 関東信越厚生局|在宅医療のみを実施する医療機関の指定に係る確認様式等について
在宅療養支援診療所(在支診)とは?
在宅療養支援診療所(在支診)とは、自宅で療養する患者の診療を主たる責任で担うクリニックのことです。厚生労働省が定めた施設基準を満たし、地方厚生(支)局に届け出ることで認定されます。
在支診には、以下の体制が求められます。
- 24時間連絡・往診が可能な体制がある
- 担当医や訪問可能日などを患家に文書で案内している
- 24時間対応の訪問看護ステーションと連携している
- 緊急時に検査や入院ができる病院との連携体制がある
- 地域の介護・福祉サービスとも連携している
- 診療記録を適切に管理し、年1回は看取り人数を報告する
このように、在支診は、かかりつけ医として地域の在宅療養を包括的に支える役割を担います。
また、在支診には体制や実績に応じて(1)〜(3)の区分があり、
区分によって診療報酬の加算点数も大きく異なります。
たとえば、緊急往診加算では、
- 在支診(3) → 650点
- 通常の診療所 → 325点
つまり、在宅医療で十分な収益を上げるには在支診の届け出が実質的に必須と言えるでしょう。地域の訪問看護・介護事業者からの信頼構築という点でも、「在宅をやるなら、まずは在支診を目指す」が基本です。
在宅専門クリニックで在支診を取るハードルは高め
在支診の基本的な施設基準は、在宅専門・外来併用どちらのクリニックでも共通です。
ただし、在宅専門クリニックとして届け出る場合は、さらに「在宅医療専門の医療機関に関する評価基準」を満たす必要があります。
主な実績要件は以下のとおりです。
- 在宅患者が全体の95%以上
- 医療機関からの紹介実績:5件以上/年
- 看取り実績:年間20件以上 or 小児重症患者10人以上
- 施設総管が在総管の70%以下
- 要介護3以上の患者が50%以上
これらを満たさない場合、診療報酬が一部減額されます。たとえば在総管・施設総管は、在支診でない診療所の所定点数の80%しか算定できなくなります。
訪問診療を柱にする場合は大きな影響となるため、注意が必要です。
在宅医療クリニック・成功の鍵は立地
今回は、在宅医療と外来クリニックの開業時における違いについて解説しました。
在宅医療は、初期費用を抑えやすく、今後ますますニーズが高まる分野ですが、成功には地域の病院や訪問看護ステーションなどとの連携体制の整備が欠かせません。
そのため開業地を選ぶ際には、
• 地域に在宅医療のニーズがあるか?
• 連携可能な医療機関や介護施設が周囲にあるか?
といったポイントを事前にしっかり確認する必要があります。
とはいえ、こうした理想的な開業地を自力で見つけるのは簡単ではありません。そんなときは、専門家の力を借りるのも一つの選択肢です。
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